photo by 侑布子
恩田侑布子詞花集 『息の根』七句
『俳句α』2020年冬号掲載の恩田侑布子作品7句と、連衆の選評です。
山川の風のすさびを神楽歌 恩田侑布子
太刀の舞農鳥岳の北風つよし
振る太刀に颪迫れる神楽かな
神楽太鼓撥一拍は天のもの
雨垂れの珠と囃せる神楽かな
山一つ眠らんとして眠られず
深山の息の根神楽太鼓なる
太刀の舞農鳥岳の北風つよし
振る太刀に颪迫れる神楽かな
神楽太鼓撥一拍は天のもの
雨垂れの珠と囃せる神楽かな
山一つ眠らんとして眠られず
深山の息の根神楽太鼓なる
山川の風のすさびを神楽歌
- 神を崇め神にささげる神楽はまた自然への畏敬の表現でもある。
「すさび」は「遊び」とも「進び」とも。「山川の風」は神そのもの。
「神楽歌」を歌う男たちは神のすさびを恐れ崇め遊び一体となっている。(村松なつを)
太刀の舞農鳥岳の北風つよし
- 山稜に残る雪形が農事の始まりを告げるとされる農鳥岳。あくまでも山の名前であるが、この措辞があるからこそ、春の到来を喜ぶ剣舞の激しさと、その太刀が切り裂く北風の冷たさが読む者の心に立ち上がってくる。
(島田淳)
- 農鳥岳に惹かれました。南アルプスは北アルプスに比べて人も少なくアプローチも長く山登りらしい山に思います。
(樋口千鶴子)
振る太刀に颪迫れる神楽かな
- 奉納する太刀の舞に北風が吹きおろし、自然そのものが憑依したような荒ぶる力が辺りを包み込んでいる。読み手もその人知を超えた力に震える。「振る」「迫れる」の畳みかけが見事。
(天野智美)
神楽太鼓撥一拍は天のもの
- 静岡の山奥、清沢神楽の一句。「天のもの」が眼目と思います。その一拍は人間のものではない。神々のもの。神々の住む宇宙に響き渡ります。その宇宙の中の微小な存在として、われら人間もその音に体を貫かれています。
作者はそのときの様子(人も獣も草木も集う)を読売新聞夕刊のエッセイ「たしなみ」に書き留めておられます。(山本正幸)
- 気迫一魂。覚醒の一撃。神気が満ちる。
(萩倉誠)
雨垂れの珠と囃せる神楽かな
- 「雨垂れの珠」の音さえも神楽の一要素としてしまう「神楽」というものの把握に凄味があると思いました。雨粒を「珠」という言い方にも神性が込められていて美しいです。
(古田秀)
深山の息の根神楽太鼓なる
- 奥深い山と神楽の太鼓がまさに一体となり、その地の息遣いや生そのものの大きなうねりがこの十七音から生み出されることに感嘆。原始の神事とはこうであったのだろう。読み手までトランス状態に誘う一句。
(天野智美)
photo by 侑布子